Alphoenix Special Web Interview!2022.10.05

――まずAlphoenixのことを、この9月21日にリリースされた新しいアルバム『EVIL WAYS』や今回のインタビューで初めて知る方も多いと思いますので、自己紹介とバンドの簡単な説明をお願い出来ますか。

Shimpei(以下S):ギターとクリーン・ヴォーカルを担当しているShimpeiです。リード・ヴォーカルのThorくんとは以前MYPROOFというバンドを15年弱やっていて、解散後に新バンドとしてこのAlphoenixを結成しました。Bitokuくん、Yukiくん、Shoheiくんの3人はMYPROOFの活動を通して出会った後輩にあたります。
Bitoku(以下B):ベーシストのBitokuです。メタルコア・バンドSailing Before The Wind(以下SBTW)でもベースを弾いていて、そちらでは全曲の作曲もしています。

――前作『FINAL CRUSADES』から約5年ぶりのフル・アルバムとなりますが、前作をリリースした際の反応はいかがでしたか? この5年間に世の中や音楽を取り巻く環境が大きく変わりました。Covid-19によるパンデミックの中で、このアルバムはどのように制作され、レコーディングされたのでしょうか?

S:2017年にデビュー・アルバム『FINAL CRUSADES』をリリースして、夏にライヴをやったのですが、MYPROOF時代からのファンの人だけでなく、Alphoenixという新しいバンドのファンになって来てくれた人もいて、新たな繋がりが出来たことが嬉しかったですね。
B:周りからの反応はもちろんありがたかったですし、まずはとにかく「フル・アルバムを完成させた」という達成感が大きかったのを覚えています。『BURRN!』のアルバム・レヴュー欄に掲載されるのは、個人的に達成したいことの一つだったので、嬉しかったです。制作に関しては特に大きな変化はなかったですね。そもそもAlphoenixは、パンデミック前からリモートで音源制作を行っていました。前作の制作時もベース録りは僕の自宅で行い、レコーディング中はShimpeiさんとは一度も顔を合わさなかったです。作曲のやり取りも全てオンラインでした。
S:『FINAL CRUSADES』は、エットレ・リゴッティ(Disarmonia Mundi)とリモートで2016年に制作しました。日本で録音したファイルをイタリアにいるエットレに送って仕上げていく方法です。Covid-19のためにこういった制作スタイルはより一般的になりましたが、Bitokuくんも言っているように僕らの場合は元々メンバー個々のレコーディングに関する造詣も深かったため、エンジニアこそ異なりますが、『EVIL WAYS』も同様の制作方法をとっています。例外としてThorくんとShoheiくんのレコーディングは僕が機材を持ってスタジオに出向いて録音しました。制作期間は2022年明けから春先までです。

――あなたたちはこのパンデミックに対して、生活や音楽的な面でどのようにメンタルを保ち、対応してきたのでしょうか。

B:パンデミックによって、このバンドの何かが激変した印象はないです。先の通り制作はリモート中心でしたし、ライヴのペースも最初から緩やかだったので。メンバー皆、経験がありますから、変な焦りや不安はなかったと思います。
S:間違いないですね。少なくとも今のところAlphoenixというバンドは、作りたい曲を作って演奏したいメンバーと演奏するという根源的かつシンプルな活動が出来ているので、詰まっていたスケジュールが突然無くなり絶望するというような状況にはなりませんでした。ただ、皆の生活やそれぞれの家族の事もありますから実際に会う、集まるという予定が立てづらかったというのは事実です。僕が2021年に発表したソロ・プロジェクトのSHADOWGAZERはそういった背景が影響しています。ほぼ全てを1人で、家の外に出ずに完結するというAlphoenixとは全く異なる音楽活動です。

――前作リリース後にShohei <ds>(ex. SERENITY IN MURDER)が加入しています。彼がバンドに加入することになった経緯を教えください。

B:ShoheiさんがSERENITY IN MURDER在籍時に、Sailing Before The Windで一度対バンした覚えがあります。でも、その時は一切話した記憶がありません。しかし今一緒に活動している不思議。バンドってこういうパターンが結構あるので、面白いです。
S:そうだったんだね。俺もMYPROOFでShoheiくんがいた頃のSERENITY IN MURDERと対バンしたけど、同じく一切話した記憶無し。(笑)
初めて話したのは2016年だったかな? その時も話したっていうよりはRyujiくん(SERENITY IN MURDER/Gt)とShoheiくんが酔っ払って二人で「イェーイ」とかいいながら絡んで来ただけで知能を伴う会話じゃなかった。Alphoenixを始めてしばらくの間はTakuくん(ex. MergingMoon)にヘルプでドラムをやってもらっていたんですが、彼の先の都合で活動期限が決まっていたので、デビュー・アルバムを制作しながらリリース後に参加できるドラマーをずっと探していました。そういえば初めて言いますが、今はYoutuberとして有名なとっくんともスタジオに入りました。直後、彼は九州行きが決まって話が流れたりして。そんな中、Shoheiくんが実はSERENITY IN MURDERを脱退していた、という事を知ってTakuくんからの勧めもありShoheiくんと会って話すことになりました。ほぼ初対面の状態でしたが、まだ明るい夕方くらいに待ち合わせて終電ギリギリまで餃子とレモンサワーで仲良くなれたので、そこからはスムーズでしたね。ドラマーには中々スポットライトが当たりづらいのでこの場を借りて話しておくと、彼はジストニアを発症して思うようにドラムの演奏が出来なくなったんです。知る限りでは前のバンドでのツアーやレコーディング中、それからAlphoenix加入後のライヴでも悩んでいるようでした。本人ではないので勝手な事は言えませんが多くの葛藤があったことだろうと思います。ただそこで彼はめげずに別の道を模索しました。具体的に言うと、Alphoenixの活動と並行して新しいドラムの演奏法を研究し、習得のために練習し続けたんです。今までのやり方ではもうやっていけないという現実に向き合い、例えるなら右利きの人が左利きに転向するような。そして、彼はやったんです。お涙頂戴することもなく黙々と鍛錬を続ける彼が、このバンドのドラマーで良かったです。僕が普段こういった話を能動的にしないのも理由があって、まずは作品に触れてほしいからなんです。「頑張ってます」エピソードありきのコンテンツになる事には抵抗があります。例えば、作曲者が盲目の音楽家であっても、ゴースト・ライターであっても、曲そのものの素晴らしさに優劣は無いですからね。

――今作の『EVIL WAYS』を聴いて最初に感じたことは、前作に比べて、楽曲一つ一つがよりドラマティックになっていると思ったことです。楽曲単体で聴いてもその中で一つのストーリーが完結してしまうような展開がされており、アルバムではさらにオープニングの「The Great Divide」からエンディングの「Refusion」まで、それらが集まってより大きなイメージを伝えている物語のようにさえ感じました。このような意見についてはどのように思われますか? またそれらは意図してそのようにしたものでしょうか。

S:当初この『EVIL WAYS』は仮のタイトルは『HELL』でした。この世の地獄や陰謀、支配、洗脳、戦争などダークサイドの視点と曲を想定していたのですが、制作の途中で初期のコンセプトと実際に出来上がっている、というか進みたい方向性にギャップが生じたため方向転換をしました。キーワードや問題提起はダークなままなのですが、ネガティヴな感情を燃料として燃やせるような、同じテーマでもライトサイド寄りのコンセプトに変わっていったんです。悪と善を行き来した事が楽曲にもメリハリを持たせていると思います。アルバム・タイトルにも共通する『The Evil Way』はやなせたかし先生の絵本『チリンのすず』を基にしていて、家族を狼に殺された子羊が復讐心に堕ちていくという哀しい話なのですが、とてもメタルの物語っぽくあり、世界中の多くのメタル・バンドが実践している、故郷の要素をバンドに取り入れるという事をAlphoenixでもやりたかったので、今回はそれが日本の絵本からのインスピレーションで達成できて良かったです。『EVIL WAYS』のコンセンプトからは外れて使わなかったアイディアがSHADOWGAZERの楽曲になったりもしているので是非聴き比べてみてください。
B:自分の場合はSBTWでも曲を書いているので、そことの区別化は意識しました。普段のままだと曲やフレーズを複雑化してしまう癖があるので、Alphoenix用に切り替えてのぞみました。“足し算”か“引き算”かのどちらか一辺倒ではなくて、場面ごとに足し引きを選んだイメージです。ShimpeiさんやYukiの作曲スタイルを想定して、2人が使わないであろう音使いやアプローチを意図的に盛り込んでいます。よりすみ分けが進んだ結果、楽曲一つ一つがドラマティックに機能しているかなと。

――今回3つのシングル「BlaQ Road」、「Hell’s Lord」、「Dream Eater」が順次アルバムに先駆け先行リリースされました。これらはアルバム同様、スウェーデンの敏腕エンジニア、ヨナス・キェルグレン(ex. CARNAL FORGE、ex. SCAR SYMMETRY)が担当していますが、1月に配信された「Return Of The Savior」ではアルバムとは違って、エンジニアにローガン・メイダー(ONCE HUMAN、ex. MACHINEHEAD)を起用しています。なぜ、今回このような違ったエンジニアの起用を試みたのでしょうか。また、それらの出来上がりに関してバンドはどのように感じておりますでしょうか。

B:外部エンジニアを起用すると、簡単に想像上の限界を超えられるのが良いですね。エンジニアごとにそれぞれ自分達にはなかった発想や解釈に出会える。もちろんバンド内部で完結するのも良いですが、それだと良くも悪くも自分達が想定した世界観を超えないわけで。
S:メンバーだけでマスタリングまで行わなかった事も、外部プロデューサーを1人に絞らなかった事も、盲目的にならないようにするのが理由です。次にいつリリースできるかも分からないアルバムを妥協して仕上げる事は絶対にできません。次があると思うなよ、と自戒の念も込めて、シングルの時点でアルバムに向けて可能な限りのサウンド・チェックを兼ねて制作しています。ローガンの音源も素晴らしかったですが、総合的な理由でアルバムはヨナスと作ることにしました。出来には本当に満足しています。

――今回のアルバムではギターの音色に関して、前作より、よりナチュラルでクリアなサウンドになっており、これまで以上にテクニカルで扇情的なギター・フレーズやソロも展開されています。元々、テクニックには定評あるギター・チームですが、今回はどのようなことを意識してレコーディングにのぞんだのでしょうか。

S:デジタリックでタイトな音も派手で好きですが、それは前作でやったので今回は別のアプローチをしました。エンジニアであるヨナスも大きな起因の一つです。彼は欧州の伝統的なヘヴィ・メタルのアルバムもたくさん作っているのでとてもスムーズにイメージに近いサウンドを提示してくれました。メロディック・デス・メタルはヴォーカルのバックでもリード・ギターが鳴り続ける事が多いので、ギター・ソロとギターで弾くメロディを分けて語るのが少し難しいのですが、とにかく楽曲を中心に考えました。曲を通して聴いてみて、必要無いと感じれば手間をかけて録音したフレーズもボツにしましたし、逆に単純な1音でも違和感があれば何度でも弾き直すなど、曲のためにギターが存在していることを意識しました。

――バンドのメンバーは皆、メロディック・デス・メタルやメタルコアといったシーンの中で活動してきていますが、『EVIL WAYS』はより日本的で日本人の琴線に触れるメロディが満載です。これらは紛れもなく日本人にしか作り得ない楽曲とサウンドだと思いますが、これは意識的にそのようにしているのでしょうか。

B:自分達の持つ「らしさ」とは、意図して出てくるものではなく、意図して“出せる”ものでもなく、自然と出てくるものだと思います。もちろん意識的に組み立てている部分もありますが、リスナーがどう感じるかは自由です。日本的要素を感じる方もいれば、僕らが聴いて育ってきた海外のメタル要素を感じる方もいるでしょう。いずれにせよ、メロディをもっとも大事にしているのは間違いないので、そこが伝わったら嬉しいです。
S:間違いないね。個性は出すものじゃなくて出るものだから。好きなもの、影響を受けたものを、整理してきちんと並べたらこうなりました、という感じです。

――わかりました。では、もしよろしければ、各曲の簡単な解説と、このアルバムで一番好きな曲などを教えてもらえますか。

S:
「The Great Divide」
邦題は『大いなる分断』。00年代のネットの普及で世界は近づき小さくなると思っていたけど争いは未だに無くならないし、疫病で行き来も難しくなってしまった。という現実から構想を得た楽曲。分断の世界がこの曲から始まります。オープニングでのシャウトの『Let’s fuking go』はメロディック・デス・メタルの伝統芸です。

「Return of the Savior」
ちょっとステレオ・タイプなメロデス過ぎるかなと思ったけどAlphoenixでもこういう曲をやってみたくなったので書いた楽曲です。クリーン・ヴォーカル無し、速い、ブラスト・ビート、というアルバム・タイトルの『邪道』に対して王道メロディック・デス・メタルというイメージ。

「Dream Eater」
個人的には1番メロデスのイメージの強い2000年前後の若干モダン化してきたリフとリズムに、僕の得意なメロディをのせた楽曲。クリーン・ヴォーカルに重ねているスクリームも僕が歌っています。SHADOWGAZERの制作で習得した技術がここでいきました。

「Hell’s Lord」
今作で最も挑戦した楽曲です。メロディック・デス・メタルとメタルコアを行き来するような展開を1つの曲の中でまとめています。聴く人によって印象に残るパートも異なるのではないでしょうか。

「Aegis」
Yukiくん作曲のスピード・チューン。イントロからマイナー・キーのリード・ギターでぶっ飛ばす分かりやすい曲。今回、僕は速い曲をあまり書いていないので良いフックになっていると思います。

「BlaQ Road」
90年代へタイム・スリップしてドラマ主題歌のタイアップを狙いました。クリーン・ヴォーカルでスタートしてサビでスクリームするというDARK TRANQUILLITYの公式を取り入れて書いた楽曲。

B:
「Eye of the Phoenix」
リフ・ワークは、北欧メロデスとアメリカ産メタルコアの融合です。ただし後半のリード・ギター・パート以降はそのどちらでもなく、歌謡的な何かが自然と出てきた感覚です。昔60’s~70’sのプログレッシヴ・ロックにハマった時期があるので、その影響もあるかもしれません。

S:
「Diamond Dust」
こちらもYukiくん作曲の速い曲。メインのギター・メロディとアルペジオは本番レコーディングの際に、急遽、僕が付け加えました。嵐の雪山をイメージして作っています。

「Woven Wind」
エクストリームなメロディアス・ハード・ロックというコンセプトで作曲しました。ギターのクリーン・アルペジオは特にその印象が強く出せているかも。

B:
「Silver Lining」
アルバムの中で良いアクセントになることを想定して作った曲です。イントロ明けの2ビート、“リフではなくコードで疾走する”アプローチは、メロデスでは聞かないパターンかなと。もはやこの曲がメロデスなのかも謎ですが、そういう意味で普段メタルを聴かないような人にもオススメできる曲。

S:
「The Evil Way」
アルバムで最も遅い曲。チューニングもドロップAまで下げていて、重い足を引き摺って這いまわるようなリフを作りました。前述の絵本と併せて聴いてほしいです。

「Refusion」
MYPROOFの頃によく演奏していた雰囲気のリフをイントロに配置しました。あえて昔の自分っぽい作曲をしつつ、コーラスでは全く異なるアプローチを融合させています。ちなみにこのパートは何処の言語でもない呪文なので歌詞は載せていません。

「Time Gears」(日本盤ボーナス・トラック)
インスト。アルバムの中で一番古い曲かも。当初もっとダークなアルバムにする予定だったので収録するかどうかも迷ったけど、マルチ・エンディング的な感じでCDのみのボーナスで収録しています。リード・ギターのPAN振りで人の人生の巡り合いを表現しています。初めは独りでも、ときに同じ歩調の人に出会って一緒に歩いて、また離れてそれぞれの道を行ったり、そんなイメージです。

B:一番好きな曲は「Woven Wind」ですね。初めて聴いたとき、一番痺れました。イントロ明けで、シャウトとギター・メロディが切り込んでくる展開が最高です。
S:自分の曲以外だと、お気に入りは「Silver Lining」かな。サビのクリーン・ヴォーカルは僕が歌っているんですが、もらったデモには存在していなかったパートで、歌があったほうが自然かなと思って勝手に歌いました。(笑) 「Eye of the Phoenix」も同様の手法で完成させました。

――今後の活動予定や将来へのヴィジョンがあれば教えください。

B:「Time Gears」のようなインスト曲を交えた作品作りは、可能性を感じます。結果的にヴォーカルのある曲も映えるので。同じことを繰り返してもしょうがないですから、インスト曲を入れるかはともかく3rdアルバムでも新しい選択肢を恐れず取っていきたいです。
S:3rdアルバムかー。このバンドも、もうそんなところまで来たんだね。まだアウトプットできる状態にはなっていないですけど、僕の頭の中には既にいくつかアイディアがあります。いずれも今回の『EVIL WAYS』を作ったからこそのものなので、皆でまた新しい作品が作れればと思っています。

――では最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

B:1stアルバムやメンバーのAlphoenix以外の活動もチェックしていただけたら幸いです。俯瞰的に見ることで、本作の世界観がより深く伝わると思います。
S:そうですね、僕のSHADOWGAZERやBitokuくんのNevrnessも、別プロジェクトとはいえ共通する部分が沢山あるので、それらを知ることでより楽しんでもらえるのではないでしょうか。メタルとはいえサブジャンルでリスナー層も異なりますから、新しい音楽に触れるきっかけになれれば、なお良いですね。

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